MOTHER:「ぼくだけのばしょ」はどこに続いているのか

MOTHER:「ぼくだけのばしょ」はどこに続いているのか

2016年6月2日

MOTHERシリーズ第2作『MOTHER2』において、主人公の少年は世界に散らばる「ぼくだけのばしょ」をたどることで精神的に成長していくというロードムービー的な側面があります。「ぼくだけのばしょ」は下記の8カ所があります。

  1. ジャイアントステップ:謎の大きな足跡
  2. リリパットステップ:一列になり輪を描いた小さな足跡
  3. ミルキーウェル:小さな岩から牛乳のような白い水が湧き出る泉
  4. レイニーサークル:一角だけ静かに雨が降り続く場所
  5. マグネットヒル:都会の片隅にあるキラキラした磁石のモニュメント
  6. ピンククラウド:洞窟の先の崖から広がるピンク色の雲
  7. ルミネホール:ヒカリゴケが主人公の心の中を文字にする洞窟
  8. ファイアスプリング:激しく炎を吹き上げる小さな火山

MOTHER2が発売されたのは1994年、まだ子供だった僕には分かりませんでしたが、今になって改めてプレイしてみると、この8カ所の「ぼくだけのばしょ」に込められたメッセージが理解できるような気がします。僕には、こんな流れが感じられます。

  1. ジャイアントステップ:僕の誕生。偉大な一歩を世界に記す
  2. リリパットステップ:ハイハイ・よちよちで動き回る僕
  3. ミルキーウェル:母のおっぱいを飲み、無償の愛を受ける僕
  4. レイニーサークル:うまくいかない事やさみしさに涙を流し、悲しさを知る僕
  5. マグネットヒル:世界のあらゆることを新鮮に感じる好奇心に突き動かされる僕
  6. ピンククラウド:淡く沸き立つ恋に似た感情にぼんやりしていまう僕(注・洞窟の入口はウサギの石像に塞がれている=バニーガール?)
  7. ルミネホール:自分という存在を見つめる僕。アイデンティティの芽生え
  8. ファイアスプリング:アイデンティティを確立し、自らの力・エネルギーで進みはじめる僕

主人公は世界を救うために、自分という存在に気付き、確立し、真の意味で大人になるという成長の物語であるということが、「ぼくだけのばしょ」から読み解ける訳です。なお、これら8カ所を訪れた時に、主人公のネスは一瞬だけ幻を見ます。下記がそのリストですが、この幻からも上記の意味が深く汲み取ってもらえるかと思います。

  1. ジャイアントステップ:『ネスの目に一瞬白いむく犬の姿が見えた。』
  2. リリパットステップ:『ネスは赤い帽子をかぶった赤ちゃんの幻を見た。』
  3. ミルキーウェル:『ネスは遠くにママの声がしたように思った。思いやりのある強い子に・・・と聞こえた。』
  4. レイニーサークル:『ネスは一瞬、好きな献立の匂いを感じた。』
  5. マグネットヒル:『ネスの目に一瞬、ほ乳ビンが見えた。』
  6. ピンククラウド:『ネスは、若いママを見たような気がした。』
  7. ルミネホール:『ネスは、自分を抱いているパパの幻を見た。』
  8. ファイアスプリング:『ネスは幼い頃の自分に見つめられているような気がした。』

主人公はこの幻を通じて、少年がさらに小さかった頃の無意識の記憶を辿っていきます。少し年上のむく犬と共に成長したこと、ハイハイしたこと、母の愛。この世界には悲しいことがあると知ったこと。キラキラして透明な何かを掴んでいる小さな自分の手、美しい母の姿、頼もしく自分を抱え守る父、そしてそんな家族の愛を受けて生まれた自分。幼い頃の自分がまなざしで訴えかけるのは、きっと「主人公が生まれて来た理由」なのでしょう。お前はこうして生まれたのだ、愛されるために生まれたのだ、それこそがお前が存在する理由なのだ…と、少年は理解したのかもしれません。そして「愛されること」を理解することで、少年はやがて「愛すること」を手に入れるのかもしれません。

そうして8カ所の「ぼくだけのばしょ」を訪れた主人公は、自分の心の世界「マジカント」を冒険し、記憶と対話し、内なる悪魔を打ち倒した後に、一瞬だけ宇宙の真理に触れることになるのですが…この後はゲームでお楽しみください。

ゲームの外箱に、こんな言葉があります。

このゲームをプレイすると、こどもはおとなに、おとなはこどもに、なっていきます。

この言葉は、まさにMOTHER2というゲームが「こどもがおとなになる」物語から成り立っていることの証左でしょう。加えて、こどもからおとなへの道のりを丁寧になぞっているからこそ、逆におとながプレイすると「あー、俺ってこんなだったな」という風に『おとなはこどもに』という体験をすることになります。こどもとおとなの往還。人生を直線ではなく輪として描こうとしているのかもしれません。おとなの僕も、こどもの僕も、みんな一生懸命生きている僕であり、すべての理由がありつながっているものなんだという温かいテーゼを、MOTHER2は訴えかけてきているようです。すなわち、「ぼくだけのばしょ」は、プレイヤー自身につながっているのですね。僕がプレイすれば僕につながっているし、あなたがプレイすればあなたにつながっている。

ただ、大人になってしまった僕は、ついつい子供のころを忘れかけてしまいます。そんな時のために、糸井重里さんは重要なキャラクターを作中に登場させてくれています。憶えていて、忘れないで、と語りかけてくるもの。写真家ですね。なぜMOTHER2には写真家が登場するのか? その理由は、単に「エンディングで使うから」ではなく「プレイヤーよ、この体験を、今という時を、憶えておくんだ」という糸井重里さんの人生観にも似た強いメッセージなのかもしれないと思います。

思い返せば、母の愛をテーマにした初代『MOTHER』は、輪と輪の世代間・縦のつながりについて意識させてくれる物語でした。そして『MOTHER2』は、自分というひとつの輪が生まれていく様子を描いた物語だと言えます。では、MOTHERシリーズ最終作『MOTHER3』では、何が描かれていたのか…と、これはまた別のお話にしたいと思います。