古畑任三郎:澤村藤十郎「動機の鑑定」

古畑任三郎:澤村藤十郎「動機の鑑定」

今回取り上げるのは第2シーズン・第7話の「動機の鑑定」、メインゲストは澤村藤十郎・歌舞伎役者です。この回、個人的には全42回の古畑任三郎の中でも飛び抜けた出来だと思っています。マスターピースと言っても良いでしょう。

古美術商を営む春峯堂(しゅんぽうどう)の主人は、美術館の館長と結託する悪徳美術商。美術館が持つ「慶長の壷」を自らの鑑定で無理矢理国宝に仕立てあげ、さらなる金儲けを狙ったものの、邪魔が入ります。人間国宝の陶芸家である川北百漢は春峯堂を陥れ業界から抹殺しようと企て、本物の慶長の壷を手に入れた後にわざわざ贋作を作り、春峯堂と美術館の館長に掴ませていたのです。さらにはこの経緯を新聞社にバラすと凄む。のっぴきならない春峯堂と美術館の館長は結託して陶芸家を殺害し、さらには弱気になり自首を切り出した美術館の館長をも殺害してしまいます。

古畑に残されたのは、一人目・陶芸家が殺害される直前に残したと思われるメモ。

六半 うずくまる かなり寒い

このメモの真意にたどり着き、古畑は春峯堂を追い詰めますが、最後の最後に古畑は一つのミスを犯します。そのミスとは何でしょうか?

真の価値とは何か

二人目の殺害時、犯行現場の美術館には2つの「慶長の壷」がありました。本物と、陶芸家が作った贋作の2つの壷。そこで古畑は「犯人は春峯堂なら、ニセモノの壷で殴ったはずだ」と考えますが、凶器として使われたのは本物の壷でした。犯人が古美術に通じるものなら、ニセモノで殴ったはず。つまり、春峯堂ならニセモノで殴ったはずなのに、犯人は本物で殴った。これはどういう事なのでしょう。春峯堂が行った犯罪をすべて暴き自白まで追い詰めた古畑に対して、春峯堂はその理由を語ります。

古畑さん、あなたひとつ間違いを犯してますよ。あの時私には分かってました…どっちが本物か。知っていて、敢えて本物で殴ったんです。用は何が大事で何が大事でないかということです。
なるほど、慶長の壷には確かに歴史があります。しかし裏を返せばただの古い壷です。それにひきかえて、いまひとつは現代最高の陶芸家が焼いた壺です。私1人を陥れるために、私1人のために、川北百漢はあの壺を焼いたんです。
それを考えれば、どちらを犠牲にするかは…物の価値というのはそういうものなんですよ、古畑さん。

古美術商の春峯堂がたどり着いた、物の価値についての考え方は、古畑の推理を上回っていました。犯罪者を問い詰め自白に持ち込む様は完璧だった古畑でもたどり着けなかった、犯罪者の深層。

殴ったのが本物の壷か、ニセモノの壷か? というテーマは、最終的には推理モノとしての物語の中ではあくまで本線からは外れたプロットです。しかしながら、事件を鮮やかに解決した古畑の上にピシャリと浴びせられる指摘は、見ている人間に気持ちよく響きます。この一点で、古畑と春峯堂の間に真の意味で互いを尊敬する関係が生まれ、春峯堂は気持ちよく晴れがましい様子で連行されていきます。古美術商というすべてのプロットが回収され、文字通り物語が終わっていく。このプロットの品の良さは、三谷幸喜ならではの一流の脚本家にしか成し得ないものだと言えるでしょう。

最高の物語の条件

歌舞伎役者である澤村藤十郎の演技も素晴らしく、美しく伝統的な身のこなしと柔和な笑顔と狡猾さが交錯する古美術商という配役を完璧にこなしています。だからこそ、古美術商であるからこそ発生するキーポイントに説得力が出てきます。冒頭に挙げた謎のメモも、春峯堂がつぶやく言葉も、古畑が春峯堂を犯人とする決め手になったポイントも、古美術の世界だからこそのテーマでした。そしてその春峯堂は完璧に演じられる。まるで犯人の職業が決まった瞬間に必然的にあふれ出てきたかような配役と物語を見ていると、これが本当にTVの連続ドラマの中の一話として作られたのかどうかを疑わしくすら思えてくるほどのクオリティを感じます。

古畑任三郎というドラマは、古畑という刑事と1人の犯罪者との対決を描くもの。対決する犯罪者が決まれば、物語は半分決まったも同然。当たり前と言えば当たり前ですが、これを意識できないドラマは多いです。たとえば、K-1やらPRIDEやらの格闘技だって、「誰と誰が戦うか」で見所はほとんど決まってしまいますよね? どんな物語も、「どんな背景で物語はスタートすることになったのか」の説得力が強くなければ人々の心には届かないんですね。

物語が伝えたい事や、骨となる背景といったものをすべて一纏めにして「コンセプト」と呼ぶならば、古畑任三郎ほどコンセプトがしっかりとしているTVドラマは他に類を見ません。コンセプトをしっかりと掲げ、そこから派生する様々なプロットや伏線をすべて回収し、物語を閉じる。物語として当然のことを当然のようにこなしているからこそ、古畑任三郎は一流の品の良さを勝ち得たのかもしれません。

ちなみに、この回の視聴率は24.3%。なんというか、このドラマに高い視聴率が付いて、うれしいなぁ。