初代MOTHERでは、主人公の少年とに加えもう一人の少年と、一人の少女の計3人で世界を救います。途中で不良のお兄さんが仲間になりますが、それは一時的なものです。また、3人+1人はすべてアメリカっぽい世界観の中の人物として、世界観に沿う描写となっています。
一方で、MOTHER2。3人の少年少女はMOTHERと同様なのですが、その3人に加え「東洋の王族の出で、少林寺のような拳法着をまとった、無口な弁髪の少年」が仲間となります。名前は、よりにもよって「プー」。明らかに初代MOTHERの世界観から逸脱し、MOTHERの世界観にハマッていたプレイヤーを突き放すような、違和感を覚えさせるような存在として意図して描かれているように思えます。プレイした当時の僕も「なんでMOTHERの世界にこんな奴がいるんだ!?」と奇妙に思ったことを憶えています。
そこで、今回議論するテーマは「プーは何故いるのか?」。プーが象徴する役割と、主人公ネスが背負った運命を読み解きます。以下、MOTHERシリーズのネタバレを含みます。
初代MOTHERにおける主人公の役割
プーの意味について読み解く前に、まずは初代MOTHERのシナリオを見ていきます。非常にザックリとまとめると、時系列でこんな事が起きる物語でした。
- 主人公の曾祖父夫妻が、侵略者の宇宙人に連れ去られる。
- さらわれた曾祖母は宇宙人の子供を育てることとなり、宇宙人から母のように慕われるが、そのまま帰ってくることはなかった。
- 一方、曾祖父は宇宙人の監禁を逃れ脱出し、宇宙人と曾祖母につながる秘密の言葉を残し、志半ばにして死ぬ。
- 時は移り、主人公の少年は、ある日ポルターガイスト現象に見舞われた事をきっかけに冒険に出る。
- 冒険の途中、世界にちらばるメロディを集めてると同時に、曾祖父が残した言葉によって開いた不思議な世界「マジカント」を訪れ、その世界の人々の手助けを借りながら冒険を続ける。
- メロディが揃った時、主人公はマジカントの女王マリアが曾祖母であったことを知る。マジカントは、曾祖母が作った心の世界であり、そのことを理解した曾祖母はマジカントごと消える。
- 宇宙人と対峙した主人公は、正体のつかめない攻撃にくじけそうになるが、冒険で集めた8つのメロディ=曾祖母が歌っていた子守歌を歌うことにより、宇宙人を撤退させることに成功する。
- 世界が救われる。
上記が大枠におけるMOTHERのシナリオです。読んでいただければ分かるように、初代MOTHERは「曾祖父夫妻と宇宙人間の関係」が主軸になっていて、さらに言えば「曾祖母が宇宙人に注いだ愛や慈しみ」が世界を支配している最大の原則であると言えます。主人公は曾祖母の記憶を戻し、その愛が結晶したメロディをもって、世界を救うことが初めて可能になったわけですね。
煎じ詰めれば、「主人公は世界を救うための代理人」でしかないと言えます。主人公と宇宙人との間の因縁を作ったのも、その因縁によって危機に陥った世界を救ったのも、最終的には「曾祖母の愛」ということになるでしょう。だからこそ、タイトルもMOTHERとなるわけです。
MOTHER2は「主人公が世界を救う」
さて、前提として「MOTHERは曾祖母の愛が世界を救う」という点を理解した上で、いよいよMOTHER2へと進んでいきます。
以前採り上げた『MOTHER2「ぼくだけのばしょ」の意味』では、MOTHER2における8つのメロディが、主人公の少年が「コドモからオトナへ」の成長を示していることを論じました。初代MOTHERでは、8つのメロディは曾祖母の子守歌でしたが、MOTHER2におけるメロディは主人公の内面と非常に強い関わりを持っているようです。
では、MOTHER2のあらすじを追っていきましょう。
- ある日、主人公の家のそばに隕石が落ちる。その中から出てきた人物は「宇宙人の侵略によって間もなく世界が崩壊する未来から、世界を救う少年にその指名を伝えるためにやってきた」と主人公に告げる。
- その人物は不遇の死を遂げるが、主人公は世界を救うために冒険を始めることとなった。
- 世界を冒険しながら、主人公は8つのメロディを集めることとなる。そのメロディを集めた瞬間、主人公は気を失い、自分が生まれた時に両親から愛された記憶の幻を見た後、いつの間にか丸裸でマジカントという場所にいる。
- マジカントは主人公の心の中の世界だった。その世界の中心である「エデンの海」で、自らの心の中の悪魔を打ち倒した時、一瞬だけ宇宙の真理に触れる。
- 秘められた力を解放した主人公は、時空を遡って宇宙人と対峙する。正体のつかめない攻撃にくじけそうになるが、仲間の少女ポーラの「いのる」によって宇宙人にダメージを与えることに成功する。
- ポーラの祈りはやがてプレイヤー自身にも届き、プレイヤーの想いにより宇宙人に致命的なダメージを与え、撃退に成功する。
- 世界は救われる。
ポーラの祈りがきっかけになっている辺りが「MOTHER」らしいんですが、なんと最終的にはプレイヤーが世界を救うことになります。正確に言うと、「プレイヤーと、MOTHER2の世界の人たち全員」が世界を救うわけですね。そんな結末を実現するために、主人公はメロディを集め、コドモからオトナへと成長していく訳ですが、そんな冒険の中で最も重要になるのは、やはりマジカント。主人公の心の世界であるマジカントの中心には、主人公の心の中の悪しき部分があり、その先には宇宙の真理が渦巻いています。MOTHER2の世界においては、心の中に降りていくと、やがて宇宙全体が見つかることになっているようです。極めて仏教的というか、東洋的な哲学が世界観のベースに敷かれているようですね。
「東洋的」「哲学」・・・
そう、ここがポイントです。論を急がず、ここでMOTHER2における3人の仲間を分析してみましょう。
- 少女ポーラ : 超能力が使える。幼稚園の娘。「いのる」が使える。
- 少年ジェフ : 運動は苦手だが科学は得意な秀才。天才科学者を父に持つ。
- 王子プー : 超能力が使える。「ム」の修行を終え、世界を救うため主人公と合流する。
主人公の冒険において、少女ポーラは「母性」を、少年ジェフは「仲間」を象徴しているように思えます。現に、ここまでの仲間で初代MOTHERは完結していました。では、最後の仲間・プーは何を象徴しているのか…? ここまで来れば、僕が何を言いたいのかは大分予想がついているとは思いますが、さらに別の視点から見てみます。プーが仲間になる前後のシナリオを追いかけてみましょう。
- 主人公たちがサマーズに到着。
- とある漁師の妻が妙なお店に入り浸っていると言う。この妻は、マジックケーキという食べ物の唯一の作り手であるというが、お店にハマッているおかげでマジックケーキは作っていない。
- 妙なお店は「クラブ・ストイック」。ステージに置いてある石を眺めつつ、水を飲みながら哲学するという妙な店。
- クラブ・ストイックに入り浸る漁師の妻は、マジックケーキを食べたいという主人公の願いを聞いて改心し、とびっきりのマジックケーキを作ってくれるという。
- マジックケーキを食べた主人公たちは意識を失い、夢を見る。その夢は、王子プーが旅立つ前の「ム」の修行の様子だった。
- 「ム」の修行を終えたプー王子は、現実の世界で主人公たちの前に現れ、仲間になる。
こうやって改めて見てみると、「哲学」が重要なキーになっていることが分かります。クラブ・ストイックは俗物的な意味での哲学を意味しているようで、そこから抜け出す事をきっかけに、「ム」の修行に挑むプーの世界へと物語は移り変わっていきます。そう、プーは少年が成長する際に正面から対峙することとなる「哲学」の象徴として、物語に登場しています。母親の愛から離れることで冒険をスタートし、母親ではない別の母性としての少女ポーラを仲間に、主人公には出来ない事ができ、仲間として共に冒険をしていく少年ジェフを仲間にした後、主人公がオトナになるための次のステップとして、「哲学」が必要になるわけです。
哲学といっても、ここでの哲学とは「自分を見つめること」。自らを見つめ、「自分って何だろう?」という事を突き詰めていくのは、思春期なら大抵だれでもしている事ではないでしょうか。そんな成長を物語の作者である糸井重里は描こうとしているように思います。だからこそ、プーを仲間にした後のメロディは、以下の2つです。
- ルミネホール:ヒカリゴケが主人公の心の中を文字にする洞窟
- ファイアスプリング:激しく炎を吹き上げる小さな火山
ルミネホールはまさに自らの心を映し出す鏡として機能しています。また、ファイアスプリングを訪れ8つのメロディをすべて集めた主人公は、アイデンティティが確立されると同時に、心のエネルギーが溢れ、マジカントへと進むことになります。
このようにプーは、主人公がコドモからオトナになる直前の段階としての「自己の心を見つめる」という哲学的な側面を象徴した存在だと言うことができるでしょう。
なお、マジカントで主人公は「宇宙の真理」に触れることになりますが、王子プーは国の老師から「ほしを おとす ほうほう」を学ぶことになります。それは「PKスターストーム」という隕石を落として敵にダメージを与える超能力であり、冒険で大きな助けになるものなのですが、ここでも符合が見られます。
- 主人公 : 心の奥底に、宇宙の真理を知る
- プー : 「ム」の修行の末に、星を落とす方法を身につける
心の中に、宇宙がある。心の中に世界のすべてがある…という考え方は、表現を変えてMOTHER3で再登場します。MOTHER2では世界を救うことになるプレイヤーは、MOTHER3でさらにゲームと同一化していくことになるのですが…これはまた別の話ということにしようと思います。
Sony Music Direct (2004-02-18)
売り上げランキング: 53,819
Sony Music Direct (2004-02-18)
売り上げランキング: 59,397