スマートフォンの隆盛を受けて市場が激しくシュリンクしていく中にあっても、ソニーさんが最新のミラーレス方式で先行、追うキャノンさんとニコンさん、独自性でプレゼンスを増していくパナソニックさん、富士フィルムさん、ペンタックスさん、オリンパスさん、シグマさん…と、カメラ業界は面白い動きを見せています。
しかしながら、そもそも「写真はスマホで十分!」な人が圧倒的多数を占める昨今です。どれだけ業界内で血で血を洗うスペック争いを繰り広げたところで、市場はますます小さくなるだけ。カメラ好きの僕としてはメーカーさんたちにどんどん切磋琢磨していただきたい一方で、このまま内向きな競争だけが続くなら、いよいよ危ないとも感じています。
…正直なところ、一部のカメラファンのみなさんの口汚い議論にうんざりしているんです。やれメーカーAが勝つ、Bが負ける。Cが世界を制する、Dが潰れる。高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』の一節を引用するなら、「もう止めなさい」と言いたくなるような気持ちです。カメラってもっとエモいものではなかったかしら。カメラはただの画像生成装置なんかじゃなくて、写真を撮る・写真と暮らすという一連の体験をたしなむものでは、なかったかしら。
だからこそ、ひたすら写真を撮る人の話をなおさら聴きたくなりましたし、僕自身も撮りたいと思いました。そんなこんなで実践です、去年の暮れにニコンさんのZ6を購入し、9000枚ほど撮ってみました。これでもまだまだ圧倒的に少ない、足りてない、もっともっと馴染めると思うんですが、今のところの印象をまとめてみます。
何を撮ることになるのかもわからずに、何時間もひたすらさまよい歩くスタイルの僕としては、手に収まる感じと控えめな筐体デザインがしっくり来ます。モノのカタチは、角張り方・丸め方によって印象がガラリと変わりますが、Z6のデザインは「小ぶりだけど守りは固く、派手なことはせず、使う人に忠実」な感じ。犬に例えれば柴犬的、といいますか。ちなみにソニーさんのαはハスキー的・ドーベルマン的、キャノンさんのRはレトリバー的・アイリッシュセッター的に見えます。どうでもいいですね、すいません。
中学生の頃にお年玉でカメラを買い、大学時代から一眼レフで写真をはじめた僕は、未だに撮る時にはファインダーを覗きたい派。電子式ビューファインダー(EVF: Electric View Finder)がキレイだったのが、Z6購入の最大のポイントでした。光学式ビューファインダー(OVF: Optical View Finder)に美しさでは劣るものの、未来に出来上がる写真をこの目で確かめながら撮影できるのが電子ビューファインダーの強み。撮影時のイメージがそのまま写真に落とし込めるので、本当に重宝してます。正直に言えば、いまだに技術の進歩に驚いてます。家のMacで写真を見ると、さっき撮った場面がそのままの明るさ・色で見える…写真なんだから当たり前っしょ、と思われるかもしれませんが、実はなかなかできないことだったんです、かつては。
加えて、電子式ビューファインダーでピントを合わせたい点を拡大表示しながら撮影できるのも便利です。光学式ビューファインダーでは「なんとなく全体的にピントを合わせるしかないなぁ」とあきらめていた場面も、電子式ビューファインダーならじっくりピントを追い込めます。開放で風景を撮る人(僕)歓喜。
ひとことでまとめれば、とてもとても気持ち良く、カメラで遊べています。おもちゃとしてのカメラ、道具としてのカメラという意味では、Z6は100点に近いかと。
そしてそして、肝心の写真の出来はというと…僕自身の写真の腕に問題があることはさておき、昔の僕には撮れなかった写真がバンバン撮れます。あくまで僕個人の感想でしかありませんが、かつてのデジタル一眼レフ(最近ではDSLRと略されたりもします)に比べて、ミラーレスのほうがキレイな写真が出てくると断言してしまいたいほどです。
といっても、ミラーレスの恩恵は何もニコンさんに限ったことではありません。他のメーカーさんも全部共通して、いい写真を撮らせてくれます。だからこそ、いかに既存のデジタル一眼レフユーザの気持ちを損なわずにミラーレスに移行していただくか、そこが問われているように感じます。この点、デジタル一眼レフで既にシェアを持っているキャノンさん・ニコンさんは難しい舵取りですよね。逆にソニーさんは思い切れたからこそ、今の圧倒的な立ち位置を築けたわけで。
カメラ業界はフィルム→デジタル一眼という世代交代が数十年かけてやっと完了したほど、非常にゆっくりと進歩してきた業界。しかし、ミラーレス方式の登場です。よりデジタルに統合された設計方式は、IT業界の超高速な進歩をカメラ業界にも強いることを意味します。かつては数十年かけて行った変化を、数年で行わねばならない宿命をカメラ業界とユーザは背負ったんですね。
だからこそ、今のカメラ業界はおもしろいです。
そんな業界の様子を小耳に挟みつつも、僕はひたすら写真を撮って楽しみたいと思います。みなさんも、よろしければ、電気屋さんで触ってみてください。
あ、でも、ミラーレスにも弱点がひとつ。お店で撮っても、写真のクオリティをその場で把握するのが非常に難しいんです。液晶画面で写真を見ても、きっと「昔の一眼レフと何が違うの?」となってしまうでしょう。デジタル一眼に比べて進歩したミラーレスの高精細さは、大きく印刷するかパソコンの画面で見なければ、わかりにくいものです。その点では、ミラーレスもデジタル一眼も「一部の人向けの濃い趣味」の領域をまだ出ていません。これって典型的なイノベーションのジレンマで、カメラ業界の最大のウィークポイントかもしれません。
個人的には、自分の人生のログを残すという体験全体の再デザインが必要ではないかと思っています。あたらしい生き方をもたらしてくれるプロダクト/サービスを、カメラ業界の枠を飛び越えて提案してくれたらうれしいな、と思っています(僕も勝手に考えています)。
おまけ:レンズ、いまのところの
現在使っているカメラはニコンさんのZ6、レンズは以下の通りです。
- Nikkor Z 24-70mm f/4 S
- Nikkor Z 50mm f/1.8 S
- Nikkor Z 85mm f/1.8 S
- AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D
- Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/100 ZF
- AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-135mm F3.5-5.6G(IF)
- Sigma 30mm F1.4 EX DC HSM
Nikkor Z 24-70 f/4 S は、本体とセットで販売されているキットレンズとは思えないクオリティ。正直、キットレンズで手を抜くメーカーはユーザをなめているように思えて印象悪いんですが、このレンズは逆に「こんなの付けて安く売って、大丈夫なの?」と不安にさせてくれます。
Nikkor Z 50mm f1.8 S は、驚異の解像とボケが同時に楽しめて、まあ誰でもしあわせになれるレンズです。85mm も同様で、Zの単焦点1.8シリーズはすごいです。フォーカスをあわせる時の機械音が静かなので、動画も余裕。ちなみにうちの奥さんは 85mm が一番好きで、こどもと外で遊ぶ時には必携です。135mm もお願いします、ニコンさん。
AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D は、古いだけあって非常に安く手に入りました。等倍マクロで花や虫を撮ります。キレイでキモイ写真がいっぱい撮れます。外に出られない日に家の中で楽しめるのもポイント高いですよね(カメラさわってないで仕事しろ)。
フルサイズ用レンズの最後、Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/100 ZF は、ハーフマクロかつポートレートもいけるステキレンズ。ちなみにうちの奥さんの二番目のお気に入りはコレ、マニュアルレンズも「冷たいリングをじっくり回すのが楽しい」そうです。この記事の写真もこのレンズで撮りました。
AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-135mm F3.5-5.6G(IF) は、かつての相棒・D90のキットレンズ。今となっては性能的に劣るところはありますが、まだまだ現役でがんばってくれています。Z6ならAPS-Cクロップでも約1000万画素、350ppi で A4印刷までいけます(フチがつきますが)。
同じくAPS-C用ながら、Sigma 30mm F1.4 EX DC HSM はなぜかフルサイズで使えます。Z6は通常、APS-C用レンズを装着すると自動的にクロップするんですけどね。ただし、撮影範囲外となる写真の四隅が盛大に黒くなってしまう(ケラレる)ので、演出意図をちゃんと頭の中に準備してから使う感じです。
僕は重さに耐えらない貧弱マンなので、常に携帯するレンズは2本だけ(1本は本体につけて、もう1本だけバッグに)。現時点で7本もあって持て余し気味なのに、広角レンズ(Nikkor Z 20mm f/1.8? Nikkor Z 14-30mm f/4 S?) と 望遠レンズ(Nikkor Z 100-400mm?) もお迎え予定。
そうなれば、DX 18-135mm もいよいよ引退。このレンズ1本で15万枚は撮ったのではないか。本当にありがとうね。
楽しいなぁ、カメラ。
(突発的に買ってしまいそうなのは富士フィルムさんのカメラ。でもソニーさんもキャノンさんも、みんないいなぁ、あぁ…)