誰かの声?
真夜中、寝苦しくて目が覚めたように思ったけど、それはどうやら違うようだ。誰かの声がする。僕はその話し声で目を覚ましたのだろう。窓は漆黒ではなく、かすかに青く光っている。夜明けの兆しの中で耳を澄ますと、遠くの幹線道路を走るタイヤが太そうなバイクのエンジン音と、建材が歪み木の繊維が切れる音と、何かがどすんと落ちるような音と、そして誰かの声が聞こえる。
耳を澄まして部屋を見回すと、テーブルの上でザリガニが小さな声で話しているようだ。ザリガニ? よく分からないけど、現実としてそこにザリガニがいるのだから仕方がない。重い身体をゆっくりと立たせて、右足をザリガニのほうに一歩踏み出した形で身体の動きを一切止め、警戒しつつも改めて耳を澄ませる。はさみを上下に動かしながら、ザリガニは何かを話しているように見える(聞こえる)が、内容は分からない。
ザリガニのそばに歩み寄る。まだ聞こえない。
顔を近づける。まだ聞こえない。
もっと顔を近づける。まだ聞こえない。
「アケ…サム…」
口の周りに泡を立て、はさみを閉じたり開いたりしながら、ザリガニは確かに何か話しているようだ。少しずつ音素が聞こえ始めるが、まだ文章全体を把握することはできない。
…なんだって?
耳をぎりぎりまで近づけると、唐突にハサミで耳を挟まれた。いたたたた。…いだだだだ!!
その後
夢だと気づきました。