私信入り書評『岩田さん』

9年も前に僕は任天堂を辞めていますし、当時の僕は平社員の一人でしかなかったので、とくべつに岩田さんと親しいなんてこともなく、岩田さんに対してかんがえを述べるのもおこがましいと思ってしまうのが正直なところです。ただ僕から一方的に尊敬していたので、以下は僕の片思い的な散文です。

岩田さんは、『岩田さん』という本そのままの方でした。

誰よりも覚悟しているのに、平然とおだやかで、みんなのことを理解したがってくれていて、たのしいことを探し続けている。知的でたのしいことを話されるし、いつだって質問してくれる。

岩田さんとごいっしょできた頃の僕は、ひたすら耳をそばだててお話を聞いていましたし、ほぼ日などのメディアでの発言も何度も読んでいました(今も読み続けています)。そんな岩田さんのお話が本になった…それだけで、僕はじんわりと心があたたかくなるぐらいにうれしいんです。

一度だけ、岩田さんからたしなめられたことがあります。僕が忙しさにかまけて非効率な仕事のすすめかたをしていたことを知った岩田さんは、「わたしの後輩なんだから、もっと工夫できますよねぇ?」とにこにこ笑いながら言うんです。

たしなめるにしたって、ここまでやさしくたしなめることもないですよね。だって、社長と平社員の関係性ですよ? というか、僕が大学の後輩だってこと、いつの間にご存知だったんですか?

もうひとつ、僕は社長にずいぶん失礼なことをしたことがあります。岩田さんといっしょにイベントで登壇する直前、岩田さんに「緊張しますか?」と間の抜けた質問をしてしまったんです。すると岩田さんは、にこにこ笑いながら答えました。

「あきらめました!」

そうか、目の前に「大切なこと」と「自分の不都合」があって、どう優先度をつけるのかを考えたら…あきらめればいいのか。確かに今までの僕は、何度も何度も緊張して、緊張を解こうとしても解けず、取り越し苦労ばかり繰り返していたものな。そもそも緊張を防ぐことができないことは、薄々わかっていたじゃないか。だったら、最初からあきらめてしまって「緊張した自分という前提で、どうすればベストを尽くせるか」を考えればいい…それだけなんだ。

なるほど。

岩田さんから受け取った「なるほど」という名のプレゼントは、いわば僕の人生の軌道が変わったことを意味します。

この本は、そんなプレゼントに満ちているはずです。

マネジメント、学び方、デザイン、企画、そして生き方。

年齢・性別・ゲーム経験の有無に関わらず、誰にでも人生の軌道が変わるきっかけに、満ちています。

あらためて、岩田さんに感謝して。