『「ついやってしまう」体験のつくりかた』配本開始に寄せて

2019年8月7日水曜日、2冊めの拙著『「ついやってしまう」体験のつくりかた』が配本開始となりました。一部ネット書店と都市部の書店では販売が開始されております(地方の書店はもう数日かかります)。

前作『コンセプトのつくりかた』から6年の間が空いてしまいましたが、その間ずっとこの本にかかりっきりでした。大げさではなく、ずっと考え、調べ、実験し、まとめ、執筆し続けていました。

本が出たという実感は正直なところ極めて薄いのですが、せっかくの機会なので、3点ばかり書きたいと思います。

1冊目は燃やした話

この本が出る直前、祖母が亡くなりました。祖母は『コンセプトのつくりかた』にも登場するほどに、私のキャリアに大きな影響を与えた人でした。いや、キャリアのみならず、人生のすべてに対して、です。

編集者さんの取り計らいで、初版本がギリギリ火葬に間に合い、無事棺に入れることができました。今頃、読んでくれているだろうか。

2つほど不正確な内容がある話

この本は名作ゲームからピンポイントに事例を挙げ、詳細に分析することで「つい」を産む体験デザインの原理を整理しています。

第1章「直感のデザイン」では『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂)と『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(任天堂)を事例として挙げているのですが、それぞれの事例にひとつずつ、不正確に見えるかもしれない内容があります。

  • 本書の内容:スーパーマリオは、ゲーム冒頭で右に向かって進むと、クリボーが現れる
  • 正確には:スーパーマリオは、ゲーム冒頭で右に向かって進むと、まずハテナボックスが現れ、次にクリボーが現れる
  • 本書の内容:ゼルダの伝説64では、デクの樹サマの地下で「デクの棒に火を付ける」という謎解きに出会う
  • 正確には:ゼルダの伝説64では、デクの樹サマの地下よりも前に一度「デクの棒に火を付ける」という謎解きに出会っている

なぜこんな微妙にアヤしい内容を書いたのか?

理由はこうです。

いずれの事例も、当時ゲームを実際に遊んだ人にインタビューしたところ「スーパーマリオは、右に行くとまずクリボーが出る」「デクの樹サマの地下で、棒に火を付ける謎解きがわからず苦労した」という誤った思い出を語る例が多かったんです。

要は、実際のゲームの仕様よりも「人々がどう記憶しているか」を大切に書こうとした、というわけです。ではなぜ、そこまで記憶を大切にしているのか? その理由は、本書をお読みいただければと思います。

なお、実際のところ本書では、細心の注意を払って「完全に正確ではないけれど、誤りというわけでもない」書き方をするというかたちで不正確さを回避しています。何よりもゲームの製作者さんに失礼がないように書く、その上で体験デザインという考え方をみなさんにご理解いただけるよう最大限に効果的な書き方をする、と考えながらまとめました。

ゲームから学ぶ。ゲームを遊んだ思い出が、人生に役立つ。

そんな体験を提供できたら、これほどうれしいことはありません。

全3章の主題以外の部分に相当なエネルギーを割いている話

この本は全3章で3つの体験デザインを論じていますが、それ以外に以下の内容を含んでいます

  • 終章:体験と記憶について
  • 付録1:『「体験のつくりかた」のつかいかた』と題し、5つのテーマ(企画・会議・プレゼン・開発・マネジメント)への体験デザインの応用例を示す
  • 付録2:『体験デザインをより深く学ぶための参考資料』と題し、35個の参考資料(本・読み物・ゲーム)をくわしく紹介

本を書いた実感として、上記にものすごくエネルギーを割きました。体験デザインと実生活の接点として機能してくれるはずだからです。さらには…

  • 本としての基本的なデザインが、他の本と根本的にちがいます。
  • 全編に体験デザインを応用してあります。

…というわけで、この本は「書いてある内容を理解していただく」プラス「本を読むという体験そのもので、体験デザインについて感じていただく」、2つのアプローチで深く体験デザインをご理解いただくことをゴールとしています。

なんともややこしい本ではありますが、表向きは読みやすい平易な本になっていますので、まずは一度お読みいただければと思います。

ちなみに、こんなややこしい方針の割りを食ったのは、間違いなく編集者さんとデザイナーさんです。スーパー一流なお二人に対して、無理難題を申し上げてしまい大変恐縮しつつも、素晴らしい仕上がりになったと手前味噌ながら感じております。

さいごに

この本には、続編となる内容が決まっていて、すでにプロットを書きはじめています。今作のテーマは「直感・驚き・物語」ですが、(もし出せれば)次回作のテーマは「集中・倫理・創造」となります。

これがまた、たまらんのですよ…